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浦和地方裁判所 昭和58年(ワ)1070号 判決

原告

赤川緑子

被告

日興自動車株式会社

主文

一  被告は、原告に対し、金六八〇万六四二七円及び内金五七〇万六四二七円に対する昭和五四年一二月二八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一五五〇万六八一二円及び内金一四〇九万六八一二円に対する昭和五四年一二月二八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生(次の内容の事故を以下「本件事故」という。)

(一) 日時 昭和五四年一二月二七日午後五時三〇分

(二) 場所 東京都豊島区東池袋三丁目一一番九号付近

(三) 加害車両 訴外伊佐敬照(以下「伊佐」という。)運転の普通乗用自動車

(四) 事故態様 伊佐が原告外一名を乗せて右日時場所を進行中、後方車両の有無を確かめてから進路変更すべきであるのに、後方の安全確認を怠つて漫然進路変更しようとした過失により、後方車両と衝突した。

2  原告は、本件事故により次のとおりの傷害を受けた。

(一) 入院日数 一九二日(昭和五五年二月二二日から同年九月一日)

(二) 通院期間 九二五日(昭和五五年一月四日から同年二月二一日、同年九月二日から昭和五八年一月三一日)

(三) 実際通院日数 三八七日

(四) 症状固定日 昭和五八年一月三一日

(五) 後遺症 一四級

(六) 原告の受傷の内容は、当初頸部捻挫ないし頸椎捻挫であり、後遺症の病名は外傷性頸部症候群ないし頸椎症性神経根症である。自覚症状として、頭痛、頸痛、肩痛、背痛、腰痛、四肢しびれ感、眼痛、疲労、両頬部痛、吐気、立ち暗み、易疲労性、物忘れ、いらいら等である。

3  被告は、前記加害車両を保有し、かつタクシーとして同車両を使用していたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条の運行供用者としての責任がある。

4  原告は、本件事故により次のとおりの損害を被つた。

(一) 治療費 五四〇万〇七三〇円

(二) 入院雑費 一五万三六〇〇円(八〇〇円×一九二日)

(三) 通院交通費 五六万二六四〇円

(四) 休業補償 一〇三四万〇九四〇円

原告は、安田生命保険相互会社(以下「安田生命」という。)に勤務する保険外交員であるが、昭和五三年度所得は九五六万〇四五四円であつて、経費三〇パーセントを控除すると一日当たりの収入は一万八三三五円となり、昭和五五年一月四日から昭和五六年七月三一日(但し、同年一月一一日、一六日、一七日、二一ないし二三日、二五日、二八ないし三一日を除く。この期間は事実上休業したが、会社から給料を受領している。)まで合計五六四日休業したので、その休業補償は一万八三三五円×五六四日=一〇三四万〇九四〇円となる。

(五) 逸失利益 二六五万八四七二円

原告は、症状固定時に満五九歳であるから、勤務年数一〇年、ホフマン係数七・九四四九、一日当たりの収入一万八三三五円、労働能力喪失率五パーセントとする。(18,335×365×7.9449×0.05=2,658,472)

(六)(1) 慰謝料 二三〇万円

(2) 後遺症による慰謝料 七五万円

(七) 合計額 二二一六万六三八二円

(八) 既払分 八〇六万九五七〇円

(九) 残金 一四〇九万六八一二円

5  原告は、被告に対し、右損害金を請求したが、その支払を拒否されたので、原告訴訟代理人に委任して本訴を提起し、その弁護士報酬として一四一万円を支払うことを約した。

よつて、原告は被告に対し、右損害金合計一五五〇万六八一二円及び弁護士報酬一四一万円を除く内金一四〇九万六八一二円に対する昭和五四年一二月二八日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実中、(一)ないし(五)は認め、(六)は不知。

3  同3の事実は認める。

4  同4(一)の事実は否認する。

治療上不必要であつた個室使用料六八万四〇〇〇円は控除すべきである。

5  同4(二)ないし(五)の各事実は不知。

原告の基礎収入は、事故直近三か月である昭和五四年九月から同年一一月までの収入に経費率四四パーセントを控除した金額によるべきであり、逸失利益については、右のほか原告の後遺障害が一四級であつたから、労働能力喪失期間を症状固定日から三年とし、新ライプニッツ係数を使用して算出すべきである。

6  同4(六)(1)、(2)は争う。

7  同4(八)の事実は否認する。

原告への既払額は合計八八一万九五七〇円である。

8  同5の事実は不知。

三  被告の主張

1  因果関係の割合的認定

(一) 原告には、既応症としてバルソニー病の疾病があり、バルソニー病とは、加齢に伴う変形性脊椎症の発病に随伴して発生する疾病であつて、外傷性頸椎、脊髄捻挫、即ち本件事故による頸椎、脊椎捻挫とは直接関係のない疾病である。

(二) 原告は、易疲労感、無気力等を症状とする心因症に罹患しており、被害者の心因症の発病による治療期間の長期化というのはけうな事例であり、一般通常人の予見、認識し得ない事情であるから、右事情は相当因果関係の範囲外であるとして交通事故との因果関係を否定すべきであり、本件事故における原告の損害額を算定するに当たつても、原告の心因症の発病という特殊な事情を斟酌してその治療期間のうち本件事故と因果関係のある期間を限定的に認定し、それに基づいて原告の損害額を割合的に認定すべきである。

(三) 以上のとおり、本件においては、原告の加齢によるバルソニー病と心因症の発病という特異な事情が競合し、治療期間がその衝突の程度や当初の受傷状況に比して異常に長期化したものであり、その治療期間のすべてについて被告の損害賠償責任を認めることは失当であつて、具体的事情に照らして割合的認定をすべきであり、本件の場合、本件事故と因果関係のある割合は三割程度が相当である。

2  損益相殺(抗弁)

原告は、本件事故により、被告から七三一万九五七〇円の支払を受けたほか、右事故の加害者である被告及び訴外有限会社セブン工業が加入している各自動車損害賠償責任保険から一五〇万円を受領しており、既に合計八八一万九五七〇円の支払を受けている。

四  被告の主張に対する認否並びに反論

1  被告の主張1(一)の事実中、原告のバルソニー病が本件事故と無関係であることは否認し、その余は認める。

バルソニー病が一般には交通事故と無関係に発生する病気であるとしても、本来なら発生しない病気が交通事故を引き金として出てくる場合もあり、簡単な治療で治るはずの病気が後遺症のためになかなか良くならないこともあり得るし、通常人の場合、耐え得る程度の病気が、交通事故による後遺症と重なつて耐え難くなることもあり得るから、原告のバルソニー病を含む変形性頸椎症が本件事故と全く無関係であるとは言い切れない。

2  同1(二)の事実中、原告は、易疲労感、無気力等を症状とする心因症に罹患していることは認め、その余は否定する。

被告は、原告の心因性症状が治療期間を長期化させていると主張するが、原告の症状の五割は外傷性頸椎症候群によるものであり、残る五割が心因性症状によるものであるとしても、右症状を惹起させた大きな引き金が事故当初の被告側の脅迫的態度にあつたのであるから、その責任は被告側にあり、原告の心因性症状も本件事故と相当因果関係の範囲内にある。

3  同1(三)の事実は否認する。

原告の心因性症状惹起の責任は被告にあるから、その心因性の影響五割を被告の責任から控除するわけにはいかず、バルソニー病による影響を考慮しても、被告の責任は原告の全損害の八割を下回ることはない。

4  同2の事実は認める。

第三証拠

本件記録中の証拠関係目録各記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  請求原因1の事実、同2(一)ないし(五)の事実、同3の事実は、いずれも当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証の一〇ないし一三によれば、原告は、当初の診断で本件事故により頸椎捻挫の傷害を負つたことが認められ、これに反する証拠はない。

右各事実によれば、被告は、自賠法三条に基づき、原告の本件事故によつて被つた後記損害を賠償すべき義務があるというべきである。

二  被告は、割合的因果関係の主張をするので、以下検討する。

1  被告の主張1(一)の事実中、原告のバルソニー病が本件事故と無関係であるとの点を除くその余の事実、同1(二)の事実中、原告は、易疲労感、無気力等を症状とする心因症に罹患していることは、いずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、前掲甲第一号証の一〇ないし一三、成立に争いのない甲第一号証の二ないし四、第一号証の五の一ないし三、第一号証の六ないし九、第一号証の一四ないし一六、乙第一ないし第六号証、第八号証、原本の存在及び成立ともに争いのない乙第七号証、並びに証人平野雅子、同山岡昌之の各証言、原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一)  本件事故状況等

(1) 本件事故は、加害車のタクシーを運転していた伊佐が、時速五ないし一〇キロメートルで車線変更しようと右タクシーを進行させた際、右後方から時速約四〇キロメートルで進行してきた車両の左側面に右タクシーの右前部を衝突させたものであつた。

(2) 原告は、本件事故当時、顧客に対する年末のあいさつ回りをするため、娘の雅子や同人の子供二人とともに後部座席に同乗し、右事故に遭遇したものであり、衝突直前右タクシーが右斜め前方に進出しようとしたため、助手席の背もたれ部分を左手で持つてはいたが、衝突のシヨツクで額を右背もたれ部分にぶつけたと思われる状態であり、他方、同乗していた娘の雅子は、右後方から進行して来る車両を認め、衝突の危険を感じ、突差に子供達を抱き、足をふんばり衝突に備えたため、車体に体をぶつけることもなかつた。

(3) 原告は、本件事故直後、両頬部分に異和感はあつたものの、他に格別の外傷や異常もなく、同乗していた娘の雅子や子供達にも格別のけが等はなかつたため、別のタクシーに乗り換えた。また、事故を起こした両車両の運転手にも格別にけが等はなかつたため、伊佐らは右事故を物損事故として届け出た。

(4) 原告は、本件事故当日、両頬に異和感があつたほか、乗り換えたタクシーに乗つていた際車に酔つたような感じはあつたものの、他に格別の異常はなく、右事故後の昭和五四年一二月二九日には勤務先に出勤し、同月三〇日から昭和五五年一月三日まで、かねてから予定していた北海道の息子の所に出掛け、右三日に北海道から浦和市所在の娘雅子宅に帰つたところ、体全体に痛みを覚えるようになつた。

(二)  原告の治療経過等

(1) 原告は、同月四日、埼玉中央病院を訪れ、医師に体中が痛い旨告げて診察を受けたところ、医師からむち打ち症であり、二週間位安静にして様子を見る旨告げられ、会社を休まなければならないこともあり、右医師に頸部捻挫で四週間の安静加療を要する旨の診断書を書いてもらつた。なお、右病院で原告を担当した医師は、原告の通院中、精神科に依頼して原告を受診させたところ、同科の医師から、原告を診察した結果「強迫神経症と思われます。」との回答を得たことがあつた。

(2) 原告は、右一月四日以降埼玉中央病院に通院し、治療を受けていたが、知人の紹介もあり、同年二月一四日、九段坂病院を受診し、外傷性頸部症候群との診断名で治療を受け、同月二〇日、同病院の医師の紹介で中野総合病院に同月二二日から同年六月一八日まで入院し、その間頸椎捻挫との病名で治療を受け、同一八日から九段坂病院に入院し、同病院では頸椎症性神経根症との病名で治療を受け、同年八月三一日、症状が軽快したとのことで同病院を退院した。

(3) 原告の中野総合病院入院時の看護記録の主訴欄には、「手指、右眼上部、両頬部、下顎部の感覚がおかしい、両下肢のかつたるさ、起立時のよろめき、言葉のもつれあり、後屈時頸部痛(+)、後頭部の鈍痛(+)、気分のいらいらあり」と記載されており、また、原告の九段坂病院入院時の看護記録の現症欄には、「左第二指が完全に屈曲できない、少し曲げると疼痛あり、左上下肢が時々しびれ感あり、右肩甲部運動時疼痛あり、長く会話すると顔面に異常感あり」と記載されている。

(4) 原告は、入院中の同年六月頃から約二か月間、娘の雅子が肺炎で入院し、生死の境をさまようといつた事態が発生したこともあつた。原告は、同年六月二三日、ヒステリー症状を起こしたことがあり、また、外泊中の同月二九日には、左前胸部に締め付けられるような感じがするとか、四肢末端のしびれ感が生じ、過呼吸となつている旨訴えており、九段坂病院の医師は、右訴えを心臓神経症、過換気症候群と判断し、原告に必要な指示を与えたことがあつた。

(5) 原告の九段坂病院での整形外科の担当医師は、同年七月四日、原告の外傷性頸部症候群はほぼ完治しているが、右ヒステリー症状や心臓神経症、過換気症候群と判断される訴えがあつたため、神経科の医師に原告の検診を依頼し、同科の医師から「不安感が根底にあり、蓄積されたストレスが身体的発現の形をとつたものとして、ヒステリツクなものと考えてよいと思う」旨の結果報告を受けた。

(6) 原告は、九段坂病院を退院後、引続き同病院に通院し、主に診療内科の医師から治療を受け、昭和六〇年七月一九日症状固定の診断を受けた。なお、自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書によれば、主訴又は自覚症状は、「頭痛(前頭~後頭部)、頸痛、肩のこりと痛み、背痛、腰痛、全身硬直感、四肢特に指先のシビレ感、眼痛、眼精疲労、両頬部痛、吐気、立ちくらみ、めまい、易疲労感、物忘れ、いらいら」である旨の記載がある。

(7) 原告には、老化現象の一つであるバルソニー骨化像が認められ、右バルソニー骨化像は外傷とは関係がなく、変形性頸椎症の兆候の一つと考えられ、原告の訴えている手足のしびれはこれによるものと考えられており、九段坂病院の医師の昭和六一年一〇月一五日付回答によれば、変形性頸椎症が原告の治療の長期化に及ぼした度合は「約二〇%程度か?」とされており、また、原告には、本件事故を引き金として易疲労感、いらいら感、無気力、動悸、心窩部異和感などの不定愁訴症候群が出現しており、右病院の医師の右同日付回答によれば、右心因性症状が原告の症状に影響している程度は約五〇パーセントと思われる、とされている。

(8) 原告は、昭和五六年八月一日以降職場に復帰しているが、症状固定と診断された後も九段坂病院に通院し、手足のしびれ、首や首から背中にかけて痛い、気温の変化によつて左ひじ、左肩、首が曲らなくなり、背中の肩甲骨の辺りが痛くなるといつた自覚症状を訴え、引続き診療内科の医師の治療を受けている。

(9) 原告は、治療を受けた埼玉中央病院、中野総合病院及び九段坂病院といずれもレントゲン写真を撮影しているが、本件事故に結びつく頸部の外傷は右写真からも認められなかつた。

(10) 原告は、見舞いに来た被告側の担当者に、本人か責任ある人に来てもらいたい旨話したところ、右同人から、国鉄の事故で総裁が来れるか、都バスの事故で都知事が来れるかとか、けがが本物か偽物か見に来た等、その言動に大きなシヨツクを受けたことがあつた。

以上の事実が認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして採用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

2  右認定事実によれば、伊佐運転のタクシーに同乗していた娘の雅子やその子供達が、事故に対する事前の防御体制を取つていたとはいえ全く受傷しておらず、右伊佐や相手車両の運転手も受傷していないほか、原告の事故による影響も、事故後約一週間を経過した頃から医師の診断を必要とするような自覚症状を訴えるようになつていることからすれば、本件事故そのものは軽微な事故であつたものと認められること、原告の外傷性頸部症候群は、本件事故後七か月目頃までにはほぼ完治していたこと、原告は、本件事故後六か月目頃には娘の雅子の大病に遇い、極めて大きなシヨツクを受けたであろうことは、その頃ヒステリーや心臓神経症、過換気症候群といつた症状が現われていることからも十分に推認し得るところであること、原告は、退院後は主に心因症の面での治療を受けてきたものと思料され、右心因症が治療の長期化に及ぼした度合は五〇パーセントと思われること、原告の手足のしびれは本件事故による外傷とは無関係な変形性頸椎症の兆候の一つであるバルソニー病によるものと考えられ、右変形性頸椎症が治療の長期化に及ぼした度合は二〇パーセント程度ではないかといつた点に右認定にかかる事実からすれば、本件事故態様に比し、原告の治療が極めて長期化しているのは、右事故による外傷よりも、むしろ右事故による被告側担当者の言動及び事故後間もなく生じた娘の大病といつた心因的なものが大きく作用し、これに原告自身の老化現象の一つであるバルソニー病も影響していたものと認められるのであるから、原告の右治療の長期化を全て本件事故に帰せしめるのは相当でなく、後記損害額の算定に際しては、右の点をも考慮して本件事故と相当因果関係のある損害額を算出するのが相当というべきである。

三  そこで、以下原告の損害額について判断する。

1  治療費

原告は、本件事故による治療費として五四〇万〇七三〇円の損害を被つた旨主張し、被告は右治療費中六八万四〇〇〇円については個室使用料であつて右治療上不必要なものである旨主張しているところ、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる乙第一二号証の一、二によれば、右治療に個室が必要であつたものとは認められないから、右個室使用料を本件事故と相当因果関係のある損害として被告に請求することはできないというべきであり、右個室使用料を除いた治療費については被告において特に争うものとも認められないから、右治療費は右個室使用料を控除した四七一万六七三〇円となる。

2  入院雑費

原告は、本件事故により昭和五五年二月二二日から同年八月三一日まで入院したこと前記二のとおりであり、右入院期間中の雑費は一日当たり八〇〇円とみるのが相当であるから、右入院雑費は一五万三六〇〇円(192×800)となる。

3  通院交通費

原告は、通院交通費として五六万二六四〇円を請求し、成立に争いのない甲第五号証の一ないし一〇によれば、原告主張の金額が交通費として支出されていることは認められるが、右交通費の中には、原告が入院期間中外泊(昭和五五年二月二三日から同年八月二八日までの間一九日間)のためと思料される交通費も計上されていること右甲第五号証の三、四から明らかであり、右入院期間中の交通費を通院交通費として計上するのは相当でないから、右一九日間の金額五万〇六三〇円を控除すると、右通院交通費は五一万二〇一〇円となる。

4  休業補償

(一)  原本の存在及び成立ともに争いのない甲第四号証、成立に争いのない乙第一〇号証、第一三号証の一、二に原告本人尋問の結果によれば、原告は、安田生命の保険外交員であるところ、昭和五五年一月四日から昭和五六年七月三一日までの間、一一日間を除く五六四日間について休業し、その間給与等の支給を受けられなかつたこと、原告の昭和五四年度の年間収入は九三三万九二六二円であつたこと、生命保険の保険外交員の諸経費を控除した所得率は全収入の五六パーセントが相当であることが認められ、これに反する証拠はない。

(二)  原告は、右休業期間の全てについて全額の補償を求めているが、前記二によれば、原告の九段坂病院退院時までの期間である二三〇日間については全額の補償を認め、右退院後の昭和五五年九月一日から右休業期間の満了まで三三四日間についてはその二分の一につき本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

(三)  被告は、原告の基礎収入については事故前三か月の収入を基準とし、経費として四四パーセントを控除した額とすべきである旨主張するが、原告の昭和五四年度の年間収入が存する以上これを基準とし、右収入から経費として四四パーセント控除した額とすべきであるから、右主張のうちこれに反する部分は採用しない。

(四)  右によれば、右休業補償は五六七万九五〇二円{(9,339,262×0.56÷366×230)+(9,339,262×0.56÷365×334÷2)}(但し、円未満は四捨五入することとし、以下の計算関係においても同様とする。)となる。

5  逸失利益

(一)  原告は、前記二によれば、本件事故により自賠法施行令別表一四級一〇号相当の後遺症を残したものというべきところ、本件事故態様や治療経過等からすれば、症状固定時以降の後遺症により三年間五パーセントの労働能力を喪失したものとみるのが相当である。

(二)  右損害額の算出に当たつては、ホフマン方式により三年間の法定利率年五分の中間利息を控除した係数二・七三一を採用し、その年間収入を前記九三三万九二六二円から所得経費四四パーセントを控除した額をもつて算出するのが相当であるから、右逸失利益は七一万四一五五円(9,339,262×0.56×0.05×2.731)となる。

6  慰謝料

(一)  慰謝料

原告は、慰謝料とのみ主張するが、別に後遺症による慰謝料をも請求しているから、右は入・通院慰謝料と解せられるところ、原告主張の入・通院期間は、前掲甲第五号証の一ないし一〇、乙第二、第五号証によつてこれを認めることができ、右のほか前記二のとおり、原告の治療期間が長期化した一因に被告側担当者の言動も影響していることや、本件事故態様、治療経過等一切の事情を考慮すれば、右入・通院に対する慰謝料は二〇〇万円をもつて相当というべきである。

(二)  後遺症による慰謝料

原告の症状固定後の後遺症は、自賠法施行令別表一四級一〇号に相当するものであること前記5(一)のとおりであり、これに本件記録に顕われた一切の事情を考慮すれば、右後遺症による慰謝料は七五万円をもつて相当というべきである。

7  以上によれば、原告の本件事故による右各損害額は合計一四五二万五九九七円となるところ、被告は、右事故の損害金として八八一万九五七〇円の既払金があるからこれを損益相殺すべきである旨主張し、右既払金については当事者間に争いがないから、右既払金を控除した本件事故の損害金は五七〇万六四二七円となる。

8  弁護士費用

原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨によれば、請求原因5の事実が認められるところ、本件訴訟の難易、認容額等一切の事情を考慮すれば、本件事故に基づく弁護士費用として被告に請求し得る額は一一〇万円をもつて相当というべきである。

四  以上述べたところによれば、原告の本訴請求は六八〇万六四二七円と内金五七〇万六四二七円に対する不法行為日の翌日である昭和五四年一二月二八日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却する。

よつて、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 栗栖勲)

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